ハムやソーセージの発がん性はどのくらい危険?食べると本当にがんになる?

ハムやソーセージの発がん性はどのくらい危険?食べると本当にがんになる?

「ハムやソーセージを食べると、がんになる」
2015年、ハムやソーセージなどの加工肉の発がん性を伝えるニュースに驚いた人も多いはず。

ハムやソーセージは子どもも大好きな食品で、私もたくさん食べてきました。
そんな馴染み深い食べ物が、今になって発がん性があると伝えられたのです。

だとしたら、私たちが今まで食べてきたハムやソーセージも発がん性に影響を及ぼすのでしょうか?

そこで、加工肉の危険性について調べてみました。
ハムやソーセージの発がん性はどのくらい危険なのか、確認していきましょう。

ハムやソーセージを食べると、がんになる?

ハムやソーセージを食べると、がんになる?

ハムやソーセージなどの加工肉に発がん性があることが報じられたのは、2015年10月26日。

がんのリスクを研究・評価するIARC(国際がん研究機関)が、加工肉と赤肉に発がん性のリスクがあることを発表したのです。
(※赤肉も発がんリスクがあるため、一緒に確認していきましょう)

加工肉はハムやソーセージ、ビーフジャーキーなど、豚肉や牛肉を塩漬けや燻製などの加工によって保存性を高めた食品です。

一方、赤肉(レッドミート)とは牛肉や豚肉など、赤い色をした肉のこと。
脂肪分の少ない赤身肉とは意味がちがい、牛や豚・羊・馬などの哺乳類の動物の肉全体を表しています。

なお、IARCによる発がん性のリスクは5段階で評価されるのですが、加工肉は5段階の中で最もランクの高いグループ1『ヒトに対する発がん性がある』。
赤肉は5段階中、上から2番目のグループ2A『ヒトに対しておそらく発がん性がある』にランク付けられたのです。

国際がん研究機関(IARC)の概要と発がん性の分類

○IARC

国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)は、国連世界保健機
関(WHO)の専門機関の一つ。がん研究に関する国際的な調和の促進を目的とする。

○IARC による発がん性の分類(2016 年 6 月 15 日時点)

グループ1
(118種類)
ヒトに対する発がん性がある。
(Carcinogenic to humans)
例)アルコール飲料、ベンゾ[a]ピレン、ベンゼン、アフラトキシン等
・ヒトへの発がん性について十分な証拠がある場合
グループ2A
(80種類)
ヒトに対しておそらく発がん性がある。
(Probably carcinogenic to humans)
例)アクリルアミド、亜硝酸塩等
・ヒトへの発がん性については限られた証拠しかないが、実験動物の発
がんについては十分な証拠がある場合
グループ2B
(289種類)
ヒトに対して発がん性がある可能性がある。
(Possibly carcinogenic to humans)
例)わらび、漬けもの、鉛等
・ヒトへの発がん性については限られた証拠があるが実験動物では十分
な証拠のない場合
・ヒトへの発がん性については不十分な証拠しかないあるいは証拠はな
いが、実験動物は十分な発がん性の証拠がある場合
グループ3
(502種類)
ヒトに対する発がん性について分類できない。
(Not classifiable as to its carcinogenicity to humans)
・ヒトへの発がん性については不十分な証拠しかなく、実験動物につい
ても不十分又は限られた証拠しかない場合
・他のグループに分類できない場合
グループ4
(1種類)
ヒトに対する発がん性がない。
(Probably not carcinogenic to humans)
・ヒトへの発がん性はないことを示す証拠があり、かつ実験動物につい
ても同様な証拠がある場合

※ヒトに発がん性があるかどうかの「根拠の強さ」に基づく分類であり、物質の発がん性の強さや暴露量に基づくリスクの大きさについては考慮せず
(参照元:国際がん研究機関(IARC)の概要と発がん性の分類pdf)

加工肉が分類されたグループ1は、ヒトに対する発がん性が明確に認められたものが対象となります。

他にグループ1に分類されているものは喫煙や紫外線、放射性物質、アルコール、ダイオキシンなど、体に有害なものばかり。

IARCによる加工肉の発がん性の発表以降、喫煙や放射性物質などの危険物質と同じグループにハムやソーセージが分類されているとして、加工肉の売上は一気に低下しました。

やはり、ハムやソーセージは食べない方が良いのでしょうか?

ハムやソーセージは食べていい?

ハムやソーセージは食べていい?

結論からいうと、ハムやソーセージは食べても問題ありません。
ただ、摂取量には注意が必要です。

IARC(国際がん研究機関)によって発がんリスクは確認されているものの、そのリスクには摂取量が大きく関係していると考えられています。

そのため大量に摂取しなければ、発がんの影響は心配ないのです。

そもそも加工肉の発がん性を発表したIARCはがんリスクを評価する際、世界中のヒトや動物による科学的な研究データをもとに総合的に判断しています。

もちろん加工肉と赤肉のがんリスクも、数多くの研究データにもとづいたもの。
ただ今回使用された研究データは、日本人の肉の摂取量よりも多い傾向にあったのです。

その摂取量は赤肉で1日50~100g。
なかには1日200g以上の肉類を摂取しているデータもありました。

ちなみに2013年の農林水産省の食料需給表によると、1人あたりの肉類の供給量はアメリカで1日322g、フランスで242g、ドイツで241g。
欧米では1日の供給量が200gを超える国ばかりの一方で、日本は1日123gと半分以下です。

欧米では1日の供給量が200gを超える国ばかりの一方で、日本は1日123gと半分以下です。

参照元:農林水産省-食料需給表

さらに、この供給量から廃棄される骨部分や食べ残しを除くと、実際の日本人の消費量は1日63g(加工肉13g・赤肉50g)だと考えられています。
日本人は他国と比べて、肉類の摂取量が極めて低い傾向にあるのです。

そのため国立がん研究センターは、加工肉や赤肉を適量に摂取する範囲であれば、発がん性の影響は問題ないとしています。

また国立がん研究センターは、実際に日本人の肉類(赤肉・加工肉)の摂取量と発がん性の関連性も調査しています。

がんや循環器疾患のない45~74歳の男女約8万人を対象に、約10年間の追跡調査によって肉類の摂取量と大腸がんの発生率との関連性が調べられました。

調査期間中に大腸がんを患ったのは、1145人(結腸がん788人、直腸がん357人)。

そのうち肥満や飲酒、年齢など大腸がんのリスクの影響がある人を除き、肉類の摂取量とがんリスクの関連性を確認しました。

その確認方法は肉類の摂取量によって5つのグループに分け、最も摂取量の少ないグループのがんのリスクを1として、他のグループのがんリスクを確認したのです。
(参考元:国立がん研究センター-赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて

摂取量によってがんのリスクが大きく上昇したのは、2つありました。
それは肉類の摂取量が最も多かった男性グループと、赤肉の摂取量が最も多かった女性グループです。

まず、男性は加工肉や赤肉などの種類に関係なく、肉類の摂取量が1日約100g以上になると最も摂取量の少ないグループと比べて、結腸がんのリスクが1.44倍高まることが確認されました。

また女性も肉全体の摂取量が100gを超えると、最も摂取量の少ないグループに比べて結腸がんのリスクが1.35倍上昇する結果に。

また女性も肉全体の摂取量が100gを超えると、最も摂取量の少ないグループに比べて結腸がんのリスクが1.35倍上昇する結果に。

さらに、女性で注意が必要なのは赤肉の摂取量です。
赤肉を1日約80g以上摂取した場合の結腸がんのリスクは、最も摂取量の少ないグループと比べて1.48倍も高まる結果となったのです。

なお、IARCでヒトへの発がん性が確認された加工肉については、摂取量によるがんリスクの上昇は見られませんでした。

そもそも加工肉の摂取量が最大で1日約20gと少なかったため、がんリスクの影響が現れなかったと考えられています。

ただ、摂取量が少ないグループと多いグループのがんの発生率を比べると、摂取量が多いグループの方が、がんの発生率が1.37倍高い結果が出ており、ここでも摂取量とがんリスクに関連性があることが確認されたのです。

IARCも加工肉の摂取量が50g増えるごとに大腸がんのリスクが18%増加し、赤肉の摂取量が100g増えるごとに大腸がんのリスクが17%増加すると伝えています。

以上のことから、加工肉や赤肉などの肉類を大量に摂取すれば、がんのリスクが上昇すると判断できます。

ただ、がんのリスクがあるからといって一切食べなくなるのも問題です。

先ほどの表の結果でもあるように、特に女性は摂取量が最も少ないグループよりもある程度摂取しているグループの方が、がんリスクが低下しています。

先ほどの表の結果でもあるように、特に女性は摂取量が最も少ないグループよりもある程度摂取しているグループの方が、がんリスクが低下しています。

動物性の肉には、たんぱく質やビタミンB群が豊富に含まれているだけでなく、女性に不足しがちな鉄や亜鉛など体を健康に保つために必要な栄養がたくさん含まれています。

そのため、まったく食べないのも健康面において問題なのです。

なお、大量摂取によるがんリスクを予防するためにWCRF(世界がん研究基金)とAICR(米国がん研究協会)では、赤肉の摂取量を週500g以下に留めるように勧告しています。

ただ、体の大きさは人によってちがうので、だれでも赤肉の摂取量を週500g以下にすれば、がんリスクが発生しないということではありません。
肉類の過剰摂取に注意を促すものであって、あくまで目安です。

とはいえ、IARCが加工肉を分類したグループ1には喫煙や放射性物質など体に有害なものばかり。
そんな危険物質と同じグループに分類された加工肉は、怖くて食べられないという人もいるかもしれません。

しかし、同じグループ1でも危険度はそれぞれちがうのです。

IARCのがんリスクの基準は?

IARCのがんリスクの基準は

IARCは加工肉を5段階中最もランクの高いグループ1『ヒトに対する発がん性がある』に、赤肉は5段階の上から2番目のグループ2A『ヒトに対しておそらく発がん性がある』に分類しました。

ランクが高くなるほど発がんの危険性が強いように思いますが、IARCの評価基準は発がんの危険度ではなく、根拠の強さです。
がんのリスクがどれだけ信用できるか、それを裏付ける根拠の強さによってランク分けしているのです。

はじめの章でIARCは世界中の研究データを総合的に判断して、がんのリスク評価をしていることをお話しました。
ちなみに今回の加工肉や赤肉のがんリスク評価には、約800件もの論文が判断材料として使用されています。

そんな数多くの論文をもとにグループ1に分類されるのは、いくつもの研究結果によりヒトへの発がん性が確認されたものだけ。

また発がん性が確認されたものでも、他の要因による影響でないことが確認できなければグループ1には分類されません。

赤肉は発がんリスクが確認されているものの、そのリスクは限られた場合にのみ発生すると判断されたため、グループ1ではなくグループ2Aに分類されているのです。

このようにIARCのリスク評価は、他の物質や偶然などの影響を取り除いた後に、どれだけ発がん性が認められるかという根拠の強さによって分類されています。

そのため、加工肉と喫煙は同じグループに分類されていますが、発がんの危険性は同じではありません。

疾病負担研究プロジェクトが発がんの危険性を比較したものでは、喫煙によってがんで死亡する人が年間100万人いるのに対して、飲酒は60万人、大気汚染は20万、そして加工肉は3万4000人だと考えられています。

疾病負担研究プロジェクトが発がんの危険性を比較したものでは、喫煙によってがんで死亡する人が年間100万人いるのに対して、飲酒は60万人、大気汚染は20万、そして加工肉は3万4000人だと考えられています。

同じグループでも喫煙と加工肉の発がんの危険性は、30倍以上も違うということ。
グループ1だから食べてはいけない、食べればすぐにがんになるという訳ではありません。

そもそも、加工肉や赤肉の発がん性は何が原因なのでしょうか?

加工肉の発がん性の原因は?

加工肉の発がん性の原因は?

今回、IARCは加工肉や赤肉に含まれる特定の成分ではなく、食品そのものに発がん性があると評価しました。
その理由は加工肉や赤肉にある発がん性の原因が、1つではないからだと考えられています。

がんリスクの主な原因は3つあります。
それは添加物、焦げ、胆汁酸による影響です。

まず1つ目の添加物についてですが、ハムやソーセージには亜硝酸ナトリウムという発色剤が使用されているものがあります。

亜硝酸ナトリウムは色味を調整する以外に、動物性の肉特有の臭みを消す働きや、自然界の毒素の中でも最も強力なボツリヌス菌の増殖を抑えて、食中毒を防止する効果があります。

ただ亜硝酸ナトリウムは動物性たんぱく質と反応すると、発がん性物質のニトロソアミンをつくり出すため、加工肉の発がん性の原因の1つとして疑われているのです。

しかし食品に使用される添加物は、毎日食べても健康に害を与えないADI(1日摂取許容量)が国際基準で決められています。

またビタミンCはニトロソアミンの発生を阻害する作用があるため、亜硝酸ナトリウムを発色剤と使用する場合はビタミンCもセットで使用される場合がほとんど。

そのため発色剤が使用されている加工肉を食べても、発がんの影響を受ける心配はほとんどありません。

2つ目は焦げによる影響です。

肉類を焼いた際にできる焦げ部分には、ヘテロサイクリックアミンという発がん性物質が含まれています。

肉類を焼いた際にできる焦げ部分には、ヘテロサイクリックアミンという発がん性物質が含まれています。

野菜も焼けば焦げますが、この発がん性物質は肉を焼いた場合にしか発生しません。

肉には筋肉を収縮するために必要なクレアチンという物質が含まれていて、肉を焼くとそのクレアチンが反応して、発がん性物質のヘテロサイクリックアミンを発生させます。

そのため肉は焦げ目を多く作らないように、焼き過ぎに注意しましょう。

また焦げだけでなく、燻製にも注意が必要です。

加工肉は木を燃やした煙で燻す燻製加工のものが多いですが、じつは発がん性物質は木を燻した場合にも発生します。

加工肉は木を燃やした煙で燻す燻製加工のものが多いですが、じつは発がん性物質は木を燻した場合にも発生します。

そのため、加工肉は製造工程で発がん性物質が含まれる恐れがあるのです。

そして、3つ目は胆汁酸による影響です。

胆のうから分泌される胆汁酸は、肉に含まれる脂肪を消化する働きがあります。
分泌された胆汁酸はほとんどが小腸で吸収されるのですが、一部は大腸へと流れ込みます。

すると腸内細菌によって酸化された胆汁酸は、二次胆汁酸へと変化。
二次胆汁酸は、がんの発生を促進する作用があり、大腸がんのリスクを高めるのです。

ただ、以上3つの影響はどれも少量では発がんの心配はありません。

しかし現代人は肉の摂取量が年々増加傾向にあります。
肉の摂取量が多くなるということは、同時に発がん性物質の摂取量も増えます。

そのため肉類の過剰摂取には注意しなければいけません。

また、アメリカでは30年に及ぶ研究結果より、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸の摂取量が5%増加するごとに、死亡リスクが8%高まることも確認されています。

ところが、この飽和脂肪酸はむずかしい成分。

じつは飽和脂肪酸は過剰摂取すると、動脈硬化のリスクを高めて心筋梗塞を引き起こす危険性があるものの、摂取量が少なすぎると脳卒中のリスクを高めるという作用があります。

摂取量のバランスが重要になるため、肉類は魚や野菜など他の食材とバランスよく食べるように心掛けましょう。

摂取量のバランスが重要になるため、肉類は魚や野菜など他の食材とバランスよく食べるように心掛けましょう。

まとめ

ハムやソーセージだけでなく、100%安全な食品はありません。
栄養豊富な食品も食べ過ぎれば、1日に必要な量を超えることで副作用が起こります。

安全で体に良い食事とは、特定の食品ではなく野菜・魚・肉・豆などいろんな食品をバランス良く食べることです。

加工肉や赤肉に限らず、どれか1つの食品を過剰摂取しないで適量を食べるように気をつけていきましょう。

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