塩分は高血圧に影響しない?減塩のやり過ぎも過剰摂取も体に悪い?

塩分は高血圧に影響しない?減塩のやり過ぎも過剰摂取も体に悪い?

子どもの頃、「ラーメンのスープは飲み干しちゃダメ」と言われましたが、これはスープに塩分が多く含まれているから。

塩分の取り過ぎは高血圧のリスクを高めるとして、厚生労働省や病院などでは減塩が推奨されています。

この考えの元となったのは、アメリカのある研究。
ところがこの研究は後に、『塩の摂取量と高血圧に因果関係はなかった』と訂正されているのです。

本当のところ、塩分は体にどのような影響を与えるのでしょうか?
そこで、塩と高血圧の関連をはじめ、塩が体に与える影響について調べてみました。

塩分は高血圧に影響しない?

塩分は高血圧に影響しない?

そもそも、塩の摂り過ぎが高血圧の原因になると言われるようになったのは、アメリカの2つの研究がきっかけとなっています。

1つ目の実験は、10匹のネズミに食塩20~30g(1日の摂取量の20倍)を6ヶ月間与え続けるというもの。
飲み水も、食塩が1%含まれているものが与えられていました。

実験の結果は、10匹中4匹が高血圧を発症。
残りの6匹の血圧は、正常のままでした。

半数以上が塩分の影響を受けなかったこの実験。
ところが発表された内容は、高血圧を発症した4匹のネズミに焦点を当てたもの。
塩は高血圧の原因と、実験結果を偏った内容で発表したのです。

日本でも同じ実験がおこなわれ、食塩の摂取量と血圧はほとんど関係しないことが確認されています。

研究者自身もまちがいを認めている

研究者自身もまちがいを認めている

2つ目の実験は、人の塩分摂取量と高血圧の関連について。
塩を摂取しないエスキモーは高血圧にならないという情報をもとに、日本人やアメリカ人の塩分摂取量と高血圧の発症率が調べられました。

その結果、高血圧の発症率が最も高かったのは、日本の東北地方。
食塩の摂取量は、平均1日30gでした。

反対に、高血圧を発症しなかったエスキモーの食塩摂取量は、1日5g以下。
このことから、塩は高血圧のリスクを高めると結論づけたのです。

しかし、この実験にも反論が出ました。
それは、調査内容が信用できないということ。

そもそも、東北地方の塩分摂取量が多い理由は、塩分は体を暖める作用があるから。
研究がおこなわれた1950年代は、今ほど暖房設備も十分ではないため、食事によって体を温める必要があったのです。

また、高血圧のリスクと考えられる要因は、塩分摂取量だけではありませんでした。
それは東北地方などの寒冷地域は、雪が降れば屋外での活動は困難となり運動不足になることや、気温が低いために血管が収縮して血流が悪くなること。

それは東北地方などの寒冷地域は、雪が降れば屋外での活動は困難となり運動不足になることや、気温が低いために血管が収縮して血流が悪くなること。

これらのことから、高血圧の原因は塩分摂取量だけとは言えないと、反論があったのです。

この反論を受け、実験をおこなったアメリカのダール博士は再調査を実施。
その結果、塩分摂取量と高血圧に関連性はなかったと、訂正したのです。

しかし、訂正した事実が世間に知れ渡ることはありませんでした。
そのため、はじめに発表した食塩が高血圧の原因という説が、今も定着しているのです。

塩の過剰摂取が高血圧の原因と発表した研究者自身は、その調査結果は誤りだと認めています。
とはいえ、本当に塩分は高血圧に関係ないのでしょうか。

それでは、高血圧の原因について確認していきましょう。

高血圧は、動脈硬化のリスクとなる

高血圧は、動脈硬化のリスクとなる

そもそも血圧とは、血液が心臓から全身に送り出されるときに、血管にかかる圧力のこと。
高血圧は、この血管にかかる圧力が強くすぎる状態を指します。

圧力が強すぎると血管内は傷つきやすく、傷ついた場所はコレステロールが溜まりやすいポイントとなります。

さらに、血管内にコレステロールが沈着すれば、血液の通る幅が狭くなるため血行不良に。血圧の上昇や、血管の内部のコレステロール沈着が進み、動脈硬化を引き起こす危険がどんどん高くなるのです。

高血圧の原因

では、高血圧は何が原因で起こるのでしょうか?

じつは、高血圧になる原因は明確には分かっていません。
ただ、高血圧に影響すると考えられているのは、加齢、肥満、遺伝、喫煙、ストレス、そして食塩の過剰摂取です。

ただ、高血圧に影響すると考えられているのは、加齢、肥満、遺伝、喫煙、ストレス、そして食塩の過剰摂取です。

やはり、食塩は血圧に影響するとのこと。
ただし、これはすべての人に該当するものではないのです。

なぜなら、私たちの体は食塩の影響を受けやすいタイプ(食塩感受性)と、食塩の影響を受けないタイプ(食塩非感受性)の2つの体質があるから。

食塩の影響を受けないタイプの人は、塩分を摂りすぎても血圧が上昇しないだけでなく、減塩しても血圧が下がることはありません。
そのため、食塩の影響を受けないタイプの人は、減塩しても高血圧の予防にはならないのです。

なお、食塩の影響を受けやすいタイプ(食塩感受性)と、食塩の影響を受けないタイプ(食塩非感受性)の割合は、下記のとおり。

食塩の影響を受けないタイプの人は、塩分を摂りすぎても血圧が上昇しないだけでなく、減塩しても血圧が下がることはありません。 そのため、食塩の影響を受けないタイプの人は、減塩しても高血圧の予防にはならないのです。

食塩の摂取量が血圧に影響するタイプ(食塩感受性)の割合は、全体の20%。
一方、食塩の摂取量が血圧に影響しないタイプ(食塩非感受性)は、全体の50%と日本人の半数以上は、食塩の摂取量は血圧に影響していないのです。

残りの30%は食塩の摂取量と他の要因が重なって、血圧に影響するタイプ。
この30%を食塩感受性側と考えても、2人に1人は塩分の摂り過ぎが高血圧の原因ではないのです。

塩分と胃がんのリスク

塩分と胃がんのリスク

自分は食塩の影響を受けやすいタイプかどうか分かれば、塩分を気にする必要があるかも分かります。

しかし、残念ながら食塩感受性の明確な基準は、まだ設定されていません。
そのため、自分が食塩感受性なのか知るには、塩分摂取量と血圧の変化を確認するしかないのが現状。

ただ、自分が食塩の影響を受けないタイプだとしても、塩分を過剰摂取しても良いということではありません。

国立がん研究センターの調べでは、食塩の摂取量が多いほど胃がんのリスクが高まることが確認されています。(下記参照)

国立がん研究センターの調べでは、食塩の摂取量が多いほど胃がんのリスクが高まることが確認されています。

そのメカニズムは、胃の中の食塩濃度が高すぎることで粘膜が傷つき、胃炎を発症。
その結果、喫煙や排ガス、活性酸素などの発がん物質の影響を受けやすくなり、炎症した細胞ががん化するということ。

また、胃がんのリスクを高めるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)にも感染しやすくなり、さらにリスクが高まる危険性もあります。

なお、女性よりも男性の方が、食塩摂取量と胃がん発症リスクの関連性は強く出ています。
一般的に男性は濃い味付けを好む傾向がありますが、胃がんのリスクを上げないためには、濃い味付けの食事は避けましょう。

また、タラコやイクラなどの塩蔵魚卵、塩辛、練ウニを毎日食べる人の胃がんリスクは、男女ともに高くなることが分かっています。

タラコやイクラなどの塩蔵魚卵、塩辛、練ウニを毎日食べる人の胃がんリスクは、男女ともに高くなることが分かっています。

これらの食品は、週1~2回までに留めておく方が安心です。

結局のところ、塩の取り過ぎは体に良くはないということ。
しかし夏場の熱中症予防には、積極的な塩分摂取が呼びかけられています。

では、塩は体内でどんな働きをしているのか、見てみましょう。

塩の体内作用

塩の主成分は塩化ナトリウムといって、塩素とナトリウムが結びついたもの。
特にナトリウムは、骨や歯を強くするカルシウムや、髪や爪の形成に欠かせないイオウなどと同じく、私たちの体を健康に保つために欠かせないミネラルの一種です。

ナトリウムの主な体内作用は、3つあります。
それは塩分(ナトリウム)と水分のバランスを整える、pH値の調整、神経や筋肉のサポートです。

塩分と水分のバランスを整える作用から、詳しい内容をチェックしていきましょう。

塩分と水分のバランス

私たちの体内を流れる血液には、約0.9%のナトリウム(塩分)が含まれています。
ナトリウムは体内の塩分濃度を一定に保つために、塩分と水分のバランスを整える働きがあります。

そのため、塩辛いものを食べて体内の塩分濃度が高まったときは、汗や尿の排出を抑えて体内の水分量を維持。
体内の水分量を減らさないことで、塩分濃度を薄めるのです。

塩辛いものを食べた後に水が欲しくなるのも、体内の塩分濃度を下げるための作用のひとつ。

反対に体内の塩分濃度が低い場合は、汗や尿の排泄によって体内の水分量を減らし、塩分濃度を高めます。

ただ、汗には塩分が多少含まれているので、大量に汗をかいた体内は水分だけでなく塩分も不足傾向になります。
そのため、汗をよくかく夏の水分補給は、水分と一緒に塩分の摂取も呼びかけられているのです。

汗をよくかく夏の水分補給は、水分と一緒に塩分の摂取も呼びかけられているのです。
続いては、pH値の調整についてです。

pH値の調整

体内のpH値とは、体内の酸性とアルカリ性の度合いのこと。
私たちの体内は酸性に傾くと頭痛や不眠、疲れを感じやすく、アルカリ性に傾くと吐き気や下痢、しびれなどの症状が現れるため、pH値がどちらに傾いても体にはよくありません。

私たちの体内の適切なpH値は、7.4の弱アルカリ性。

ナトリウムは体内のpH値を7.4に保つように働き、pH値バランスの乱れを防ぎます。

神経や筋肉のサポート

神経や筋肉のサポート

ナトリウムの作用は、水分やpH値などの体内バランスを整えるだけではありません。

脳は神経や筋肉を動かすとき、電気信号を発して体に指令を出しているのですが、その電気信号にナトリウムは関わっています。

そのため、ナトリウムが不足すると指令を正しく出せなくなり、けいれんを引き起こす原因にも。

また、筋肉や神経伝達のサポートだけでなく、ナトリウムはアミノ酸や糖の吸収をサポートする役割もあります。
さらに、食塩(塩化ナトリウム)に含まれる塩素は、消化に必要な胃酸の成分にもなるので、食塩は消化と吸収の両方の作用に大きく関わっています。

このように、ナトリウムは私たちの体を健康かつ正常に保つために、欠かせない栄養素。そのため過剰摂取だけでなく、過剰な減塩にも注意が必要なのです。

では、私たちはどのくらい塩を摂ればいいのでしょうか?
次は、体に良い塩の摂り方について見ていきましょう。

体に良い塩の選び方

体に良い塩の選び方

塩は海水を天日や加熱によって結晶化させたものや、岩塩を粉砕させたものなどがありますが、選ぶポイントはナトリウム以外のミネラルが含まれているかどうかです。

海水にはミネラルが約3.5%含まれているのですが、その大部分は塩の主成分となる塩化ナトリウム。
他には、塩化マグネシウムや硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウムなどのミネラルが微量に含まれています。

どのミネラルも大量に摂取する必要はありませんが、それぞれ体を健康に保つための働きがあるので、塩を摂取することで微量のミネラルも摂ることが望ましいとされています。

しかし、流通する食塩のほとんどは塩化ナトリウムが99%以上を占め、微量のミネラルを含まない塩ばかりです。

微量のミネラルが含まれていない理由は、塩の製造方法にあります。

食塩の製造方法の主流となっているのは、イオン交換膜製法。
イオン膜によって海水を濃縮させてから、塩を結晶化させていく方法です。

食塩の製造方法の主流となっているのは、イオン交換膜製法。 イオン膜によって海水を濃縮させてから、塩を結晶化させていく方法です。

海水を天日や釜焚きによって、徐々に濃縮させていく昔ながらの製法とはちがい、イオン交換膜製法は天候や気温の影響を受けないため、安定して塩を生産できる方法です。

ただし、イオン膜によって微量のミネラルが排除されてしまうため、出来あがった塩は塩化ナトリウム以外のミネラルを含まない塩となるのです。

じつは体に悪いのは、このイオン交換膜製法で作られた塩ではないかとも言われています。

イオン交換膜製法で作られた塩化ナトリウム99%の塩では、本来は体に取り込めるはずのミネラルが摂取できません。
ミネラルの量はわずかですが、長期に及ぶことで体に影響しているのではないかということ。

必要以上の塩化ナトリウムの摂取も、問題ではないかと考えられているのです。

そのため、体に必要な塩はいろんな種類のミネラルが入った塩です。
塩化ナトリウム以外のミネラルを含む、天日塩や釜焚き塩など昔ながらの製法の塩を選ぶようにしましょう。

塩の摂取量の目安は?

塩の摂取量の目安は?

では、1日にどのくらい塩を摂れば良いのかというと、厚生労働省では1日の塩分摂取量を男性で8.0g、女性で7.0gを目安としています。

しかし2012年の調査では、私たちが実際摂取している塩の量は、男性で11.3g、女性で9.6g。
目安とされる量よりも、かなり多くの塩を摂取しているのです。

ただし過剰な減塩は、先ほどお話したナトリウム不足による体調不良の原因になるので、注意が必要。

では、上手に塩を摂取するにはどうすれば良いか、塩の上手な摂り方について確認していきましょう。

上手に塩を摂るには?

過剰な塩の摂取と減塩を避けるには、注意したいポイントが3つあります。
それは、ダシ・食べ合わせ・減塩商品です。
では、ひとつずつ確認していきましょう。

ダシ・スパイスの活用

ダシ・スパイスの活用

減塩を意識しすぎるばかりに、味気のない料理になったことはありませんか?
味気のない料理は美味しくなく、食事も楽しくありません。

そこでオススメなのが、昆布やカツオなどのダシの活用です。
ダシをしっかり利かせれば、塩を少なくしても味気のない料理にはなりません。
コショウやカレー粉などのスパイスも、味にアクセントがつくのでオススメです。

また意外なのが、味噌の活用。
味噌は塩分の多い食品のひとつですが、動物実験では味噌で塩分を摂取しても血圧が上がらないという結果が報告されています。

食塩感受性のラットに、同じ塩分濃度で味噌と食塩を与えたところ、食塩を摂取したラットは血圧が上昇したものの、味噌を摂取したラットは通常のエサしか摂取していないラットの血圧とほぼ変わりがなかったのです。

食塩感受性のラットに、同じ塩分濃度で味噌と食塩を与えたところ、食塩を摂取したラットは血圧が上昇したものの、味噌を摂取したラットは通常のエサしか摂取していないラットの血圧とほぼ変わりがなかったのです。

味噌を摂取しても血圧が上昇しなかった理由は、発酵度の高い味噌に多く含まれる酵素の影響が考えられています。

また、味噌汁を1日2杯以上飲む人は、飲まない人に比べて高血圧になるリスクが下がることも確認されています。
減塩と同時に、味噌を積極的に取り入れてみましょう。

パセリや昆布など、カリウムの多い食品を食べる

ダシの活用と同じく、日頃から意識したいのがカリウムの摂取です。
カリウムは、過剰となった体内のナトリウムを排出させる作用があります。

そのため、カリウムを含む食品を意識して摂ることで、体内のナトリウム過剰を予防することができます。

カリウムを多く含む食品は、昆布やワカメ、ヒジキなどの海藻類。
パセリやホウレン草、切り干し大根、アボカド、バナナなど、野菜や果物にも含まれているので、意識して食べるようにしましょう。

減塩商品の方が良い?

減塩商品の方が良い?

また、醤油や梅干しなど塩分の多い食品は、塩分がカットされた減塩商品もあります。
塩分の摂取量が気になるなら、減塩商品に変えるほうが良いのか迷いますが、減塩商品を選ぶ際もチェックしたいことがあります。

それは、原材料。

減塩商品は、通常商品よりも50%ほど塩分の使用量を抑えて作られています。
そのため通常よりも味気が少なくなる分、アルコールや酸味料、アミノ調味料などの添加物が使用されている場合があります。

減塩商品を使用する際は、本来の食品との差を確認しましょう。
本来の風味を大切にしたいのか、減塩を優先させたいのか、自分の基準で利用を決めましょう。

では最後に、塩分が多いラーメンなどには、どのくらいの塩分が含まれているのかチェックしてみましょう。

塩分の多い食べ物

ラーメンのスープを飲み干すと、とても喉が渇きますが一体どのくらい塩分が含まれているのでしょうか。

ラーメンの塩分量

種類塩分含有量
塩ラーメン5.5g
醤油ラーメン5.5~11.8g
味噌ラーメン5.9~10.0g
豚骨ラーメン5.3~5.8g
担々麺6.3~8.5g

うどん・そばの塩分量

種類塩分含有量
きつねうどん5.8g
カレーうどん5.2g
鍋焼きうどん5.2g
月見そば3.1g
天ぷらそば3.1g

その他(100gあたりの塩分含有量)

種類塩分含有量
梅干22.1g
塩辛19.8g
粒うに8.4g
ノンオイルドレッシング7.4g
明太子5.6g
昆布茶48.3g
紅しょうが7.1g

1日の塩分摂取量の目安は男性で8.0g、女性で7.0g。
ラーメンの種類によっては、1日の摂取量を1杯で超える場合もあるので、やはりスープを飲み干すのは控えるほうが良さそうです。

まとめ

塩分の過剰摂取だけでなく、行き過ぎた減塩も体にはよくありません。
味噌による塩分の摂取は、健康に悪影響を与えなかったことや、食塩に含まれるミネラルの大切さを考えると、塩分量だけでなく質も重要ということ。

味噌の活用や、多種のミネラルを含む塩を使って、適度に塩を摂取するように心がけていきましょう。

このページのトップに戻る